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『ネタバレしたら坊主な!!』プロモーションも含めて1つの作品だからまずは劇場に行こう〜THE FIRST SLAM DUNK〜

~THE FIRST SLAM DUNK~結果から言って、「観た方がいい。」の一言に尽きる作品だった。

原作に愛がある人も、原作に愛があるけど諦めていた人も、原作をそもそも知らない人も。映像作品としてこれ以上ないほど上質だったし、情報が取りやすいこのご時世だからこそプロモーションも限界まで絞っていただく工夫をしてもらえたからこそ楽しめた映画だった。

おそらく1か月も経たないうちにネタバレが蔓延するだろうからまだ見ていない人は情報を遮断して早々に見てほしい。

自分自身もまだいろんな感情がぐちゃぐちゃで整理がつかないから以下はネタバレありで感想を投げる。

 

※12月4日現在公開二日目、鑑賞後のネタバレありで書くので未鑑賞者は注意!!!

 

 

 

 

 

 

 

~ネタバレ注意!!!!~

 

 

 

 

 

 

  • なぜ情報統制を続けたのか?

 

 『『『負けたら坊主な!!!』』』

 

原作で聞いたことのないセリフで展開されるPV、一方で公開されない情報、声優の交代、公開日が近づくにつれて勝手に夢想していた期待が不安に変わっていった。

 

「そもそも原作のどこやるの?山王戦?」

 

同じ不安を持つ人はたくさんいるみたいで動画サイトのコメント欄やSNSにも不安が限界を超えて制作再度の粗を探して叩くことに必死になっている人もいた。

 

それもそうだろう。ここまで期待された作品で徹底した情報統制は昨今ではあまりない。調べれば欲しい情報が手に入るご時世なのに公式ホームページにはあらすじも書かれていない。それなのに出てくる情報は映画公式グッズや制作サイドの裏話のみ。おそらく相当な負荷が鑑賞側にはかけられていたと思う。それも能動的に情報を獲得しようとする思いの強い人ほど。

 

公開初日、なんだかんだ言いつつも劇場に足を運んだ。自分自身も「もうオリジナル展開でもSLAM DUNKが観れればいいかな」って思っていたし半ば投げやりになっていた。

 

観終わった感想、圧倒された。濃縮された幸福な時間だった。

 

冒頭、The Birthdayの楽曲と共に漫画のタッチのように描かれる湘北メンバーで一気に全身の血が沸騰する。わかってはいたけどこれほどとは。

同じく対戦相手のメンバーも描かれ始めた、なんだか見たことあるような坊主頭の輪郭。坊主なのに井上神の超絶キャラデザインセンス、圧倒的劇画によって顔の書き分けが完璧にされていて一瞥して誰かわかる。深津、河田、野辺、一ノ倉、澤北、王者山王工業の登場。

そう、僕らが楽しみにしていた山王戦だった。公開までに不安一色になっていた自分が徐々に期待に塗り替えられていく。

「THE FIRST SLAM DUNK」の文字がバスケットコートのセンターサークルに描かれて試合が始まった。引き込まれるまで一瞬だった。

冒頭5分を見た際に自分の中で膨らんだ疑問。ここまでを切り抜いても十分なPVになったとは思うけどそれでもなぜ徹底した情報統制をしたのか?その疑問は観賞を終えて整理をすることで制作サイドのSLAM DUNKをどう届けたいかという思いも同時に理解できた。

 

  • 批判されることは決まっていた

 

SLAM DUNKが約20~30年の時を超えて再度映像化。そもそも旧作のある作品を新たに制作するという試みだけでも十分に炎上の要素はあり、リスクが高すぎる。更に触れる作品が当時バスケットボールブームを世の中に作り出した世界でも有数の著名な漫画だ。これだけでも鑑賞者の思い出が乗っかることで批判される可能性が圧倒的に高かった。だからこそこれまでのファンにも楽しめる作品、初めて見る人に楽しんでもらえる作品と矛盾抱えながらの制作だっただろう。
こうした思いや気持ちは井上神が声優交代に触れている通り、今作をどう見てほしいかと制作サイドが考えを重ねていたのはバックヤード情報からも読み取れた。
だからこそ公開まで余分な先入観を持ってほしくなかっただろうし、それが情報統制にもつながっていただろう。
結果から言うとこの作戦は正解だったと思う。公開後にプロモーションの方法で批判をしていた人はあまり見られていない印象だった。

公開後に批判をしていた人は概ね
「○○が出てこなかった。」「名セリフがなかった。」
この二つが多数だったと思う。

多くの人は原作の地続き、アニメの地続きであってほしいと思いがあったと思う。それは決して間違いではないし誰にも否定はできない。ただ2時間半一本では描くことのできる描写にも限界はあるし描いても意味不明に終わると思うだろうというのが率直な感想だった。

 

  • 見せたかったものは何だったのか?

この映画の肝は3つ。

  1. 一つは、主人公が誰なのか?
  2. 一つは、鑑賞者はどの目線で見るべきだったのか?
  3. 一つは、2時間半一本勝負の映画であったでターゲットは新規と既存の両方 

主人公という点については、本筋でこれでもかと表現され、スタッフクレジットでも重ねて理解させられる通り『宮城リョータ』の映画だった。これが全てだと思う。
公開前の広告ポスターの立ち位置は身長の問題と思っていたが振り返ると納得できる作り。感嘆する。
作中の表現で「○○のセリフがない!」の問題も概ね解決できる。

桜木の映画ではないから春子さんに(バスケに)告白のシーンはない。

流川の映画ではないから澤北に「俺もアメリカに行くよ」と言わない。

 

鑑賞者はどの目線で見るべきだったのかという点については、我々はあくまで湘北対山王を鑑賞しに来た観客という視点が一番理解しやすい。原作を読みこんだ人、アニメを楽しんだ人、これらの視点は湘北のベンチメンバーの一人、もしくは湘北サイドの応援団という視点で作品を鑑賞していったではないだろうか。確かに湘北サイドに立ってみると「もっと桜木はシュート練習頑張ってたから、スポット当ててよ!」「赤木はこれまでずっと努力し続けてきたのに…!!」という気持ちになるだろう。しかし、今作はあくまで湘北対山王であり、我々は第三者として試合を観戦しに来たという見方の方が納得しやすい。
まず、作中での試合時間の経過の仕方、カット割りでボールが動く時間がほとんど削られていない。宮城の回想が合間に挟まれていたが試合の時間はほとんど経過していない。あくまで試合は試合なのだ。正確に時間を測ったわけではないが試合時間40分はほとんど描かれていたではないだろうか。澤北の「よーい、ドン」然り、桜木のリバウンドの速さ然り観客であるからこそ驚くべき才能という見え方に力を割いていた。逆にゴール下を宮城視点で見た際に細かく動いている両陣営に対して一人だけ棒立ちの桜木という構図もいい塩梅になっている。確かにバスケ始めて4か月の動きだった。話は逸れたが第三者であるからこそナレーションの声は聞こえないし、キャラクターの独白は聞こえない。逆に全国大会とはいえ高校生の大会なのでボールの弾む音は響くし、応援の声はよく通る。もしかしたらキャラクターが小さくつぶやいたセリフも観客席で少し聞こえているのかもしれないという思いに至れた。

流川の「そんなタマじゃねえだろ」は口に出していて、桜木の「左手は添えるだけ」は聞こえなかった理由として前者は登場人物同士の掛け合いであり、後者は自分へ言い聞かせている。という区別ができる。

 

2時間半一本勝負の映画であった点については、あくまでもターゲット層の問題であり、「○○が深堀されなかった」という意見もしばしば見た。しかし鑑賞者の層を鑑みた際におそらく40代の方がメイン、家族で来ることなども想定される。また口コミでヒットすればSLAM DUNKを知らない層も見に来る。
その時に魚住が急に出てきて大根のかつらむきを始めたらどうなるだろうか。劇場困惑、ネットミーム爆誕。クラスのでかいやつのあだ名は明日からビッグジュンになるだろう。
冗談は置いといて、知っている人は勝手に良いシーンだと感慨深くなって感動すると思うが知らない方が見たら、下手したら笑いが生じるかもしれない。そんな温度差が同じ作品を見ている劇場内に生じたら映画として、冷めるに決まっている。少なくとも自分は映画見ている際に隣で笑う人とか本当に無理だからきつい。実際に今作の桜木が終盤河田に「返せ」とリバウンド奪いに行くシーンで横にいた女性が笑っていたし、魚住の存在はそのものが劇場の空気を壊す核弾頭になりえる。魚住を例にとって話を進めたがあくまで魚住が嫌いなのではなく他のキャラの掘り下げでもこうした劇場での感情の分裂は生じると思う。流川にスポット当てて劇画の谷沢が出てきたらちょっと耐えられる自信がない。
受け手が同じものを見てそれぞれ違う感情を抱くのはヒューマンドラマや恋愛ものではいいかもしれないが、制作サイドが描きたかったのはスポーツなのだ。スポーツ鑑賞で求められるものは興奮による一体感。我々は観客だからこそ触れれば掘り下げが必要な描写やキャラクターについては触れてしまえば1作品だけでは描き切れず省かなければならなかっただろう。また、湘北の面々を見ても誰を主軸に据えるか考えた際に、宮城以外を選択すれば必ず他の試合も掘り下げなければならなかった。宮城のみ唯一ほとんど過去が描かれていない=誰しもが想像の余地があった。これが新規と既存に満足度高く楽しんでもらうための最善の一手だったと思う。

 

  • ありがとう制作陣

日々公開まで進むにつれて身勝手な我々鑑賞者のプレッシャーに耐えて途轍もなく良質な作品を送り出すだけでなく、PVも含めて この時勢においてここまで完璧な情報統制をすることで一切のリークすらなく、不安を期待値に変えた制作サイドには本当に驚きと感謝しか言い表せない。むやみやたらな誹謗中傷とストレスに負けてネットに書き込んだりしないでくれてありがとう制作陣。これからは胸を張って、SLAM DUNKの映画作ったって言い張ってほしい。 

鑑賞終了した人たちは情報がほとんどない状態で劇場で見ることが一つのコンテンツになっているからぜひともみんなでSLAM DUNK新規に布教していこ。