まいのりてぃりぽーと

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劇場版サイコパス3 『PSYCHO-PASS サイコパス3 FIRST INSPECTOR』

一時間枠のテレビシリーズとして全8話を放映。
六合塚弥生が交通事故に遭遇、横に佇む梓澤廣一という様から襲撃を示唆してフェードアウトという衝撃の最終回から視聴者には続編が待ち遠しい状況となっていたサイコパス3。

遂に待望の劇場版『PHYCO-PASS3 FIRST INSPECTOR』(以下、「本作」)が公開。

待っていた人も多い一方で世間ではコロナウイルスの蔓延によって外出自粛が要請されていますが、無理をして映画を見に行かないでもAmazonprimeで同時に公開もされているので自宅で視聴して安全に行きましょう。

(というより映画館が全国的にも休館にしているので見る手段がAmazonprime限定になっている…)

Amazonprimeでは本作を全3篇に分けており、ダウンロードも可能なのでスマホにDLして通勤時間などに見ることもできますよ。 

 
 
本作、個人的にはアクションシーンに比重を置いていたり、広げた風呂敷を畳もうとしていたのがよくわかる内容でした。
なぞはいくつか残っているので感想、ネタバレ交えながら書き綴ります。
 

あらすじ

本作は、アニメシリーズ最終回直後からスタート。

梓澤は六合塚を事故に見せかけて襲撃、梓澤の手に握られていたのは六合塚の持っていた公安局の入館証。

公安局に入館した梓澤は公安局に入り込み外部との接触連絡を遮断、パスファインダーを呼び込み、拘留されていた小畑や他の囚人を開放し捜査官や監視官を刈るゲームを始める。公安局内には東京都知事がおり、梓澤は「都知事が辞任をすれば公安局を開放する」と言い放つ。

 

 

 

 

 

 

感想・解説

 

 

 

ネタバレにもなるので注意

 

 

 

スピード感溢れる展開

サイコパス3はテレビシリーズから主人公が元軍人、パルクールを嗜むなどアクションシーンが豊富だった。

劇場版も例にもれず、開始直後から公安局がジャックされ、アニメシリーズでも存在感を残したまま謎が多く残されていたパスファインダーの二名は梓澤が手招きをして公安局内部に侵入。
捜査の為に拘留されていたハッカーの小畑も梓澤の手引きによって解放。他にも拘留された潜在犯を開放し瞬く間に公安局を混沌の場に仕立て上げる。

開始10分ほどでシリーズでも最大規模の窮地が作り上げられ梓澤の天才的な手際の良さが示されるとともに以降の展開に期待させられる。

梓澤によるゲームが開始されてからは公安局、外務省入り乱れての乱戦が始まる。

それぞれ5分ほどだが各メンバーの見せ場が設けられており、いずれも各キャラクターの特徴を際立たせた立ち回りが展開される。

公安局刑事課一課のみならず外務省、果ては霜月にも見せ場が設けられていたのは驚きだった。

狡噛に至ってはパスファインダーを追いかけるシーンで
「待て死にぞこない!!」
と暴言を投げかけるなど、短いシーンの中で素が見られる姿などキャラクターの見せ方がうまいと唸らされた。(というより狡噛がキレるのが唐突で少し笑えた)

 

梓澤廣一という男からみるシビュラシステム

梓澤の目的はテレビシリーズで明らかにならなかったが本作では序盤から目的を匂わす発言をかます

本人も気づかずハイテンションになっているのかやたらと饒舌。
きっとご機嫌なんだろう。

梓澤は展開したゲームについて
「ただ人が真にシビュラ的か試しているだけ」
と語る。
本作において梓澤が仕掛けるゲームはすべて、選択によって結果が異なる。
生存して色相が曇る死亡するその二者択一である。まるで神の真似事をするかのように。

そして終盤で梓澤の目的がシビュラシステムの一部となることが語られる。
シビュラを神と崇めた男はシビュラの一部となるべくゲームを展開していたことが判明する。

しかしシビュラシステムはそれを拒絶する。
理由は明快で梓澤は免罪体質ではないためだ。
テレビシリーズでは梓澤は周囲から人間ではないと評され免罪体質と思わせる描写がミスリードであったこともここにきて判明する。

(シビュラが梓澤を拒絶するシーンは完璧を気取っていた梓澤が狼狽するのも頷けるほど悲惨なのでぜひ見てほしい。)

劇中、「この社会がゲームじゃないかい?シビュラシステムという絶対のルールで行われる。それを理解できないやつが負けるのは仕方ないことだ。」
といった発言からも心底シビュラに惚れ込んでいたことが描かれた末に免罪体質ではないというだけですべてを砕かれる。

ではシビュラの言う免罪体質とはどのような素養なのか。

異常性という点では常守や慎導のほうがおおよそ社会的でありも模範的にすら見える。

シビュラの言葉から免罪体質は
「一般倫理に囚われない特徴的視野を持つ者のみ」
と言われる。

シビュラの言う免罪体質者とはあくまでも一般倫理=集合知であるシビュラの尺度で測定することのできない人間を指している。
シビュラになることを望んだ人間=既存の倫理観に迎合することのできる良き市民はシビュラシステムの進化にとって迎え入れる必要のない人間である。

人間の価値を個人の選択にあると問うた槙島

集合体は個人として認識が可能なのかを問うた鹿矛囲

いずれもシビュラシステムの範疇では測れないために疑問を提訴した人物であり常守や慎導も同様にシビュラシステムについて幾度も疑問を投げかける、相対的な尺度で測ることのできない絶対的な倫理観を持っていることが描かれている。

梓澤はあくまでもシビュラの敷いたルールのうえでしか物事を語れない人間であったためシビュラに拒絶されてしまった。
梓澤の持っていた異常性はあくまでも人に判断を委ねていた結果が異常に見えただけであり、本質は自身で独自の倫理観を持っていないため免罪体質とは決定的に異なっていた。

免罪体質者はいずれも望んで免罪体質者ではない。
免罪体質者であろうとするものほどそうなることはできないシステムになっていることが本作によって決定づけられた。

 

シビュラシステムの在り方とビフロスト

シビュラシステムは現実世界に例えるなら司法権を持った軍隊である。
軍隊が指揮命令を待たずして独自の判断において刑罰を執行できる。

だからこそシビュラシステムは間違った判断を下さないように常にアップデート免罪体質者の取り込みを行うことでその秩序を保っている。

しかし、1期にて狡噛が禾生局長に処分されそうになったシーンではシビュラによって害になると判断されたことが理由の一つである。

だがこの行動はシビュラが自身の益を守るためであり(狡噛が処分されそうになったのは取り込もうとしている槙島を殺害しようとしたため)
公平な判断を下すことが目的としたシステムにはそぐわない。

本作ではシビュラは同様に梓澤を処分しようと(シビュラの真相を知ったことから口外される恐れがあるため)計測されたサイコパス以上の刑罰を処そうとする。
公平であるシステムが独善的に執務することに矛盾があることを慎導から指摘されることでシビュラはそれまでの独善的な処分行為を自身で律することとなる。

これこそが本作において過去作品も跨いだ大きな伏線の回収である。

また、本作の事件が終息した際に常守とシビュラの会話にて「システムを一般公開する際~」とあったがこれは

シビュラの恣意的な判決をなしと決断したことによって測定値に準じた刑罰を絶対とすることを定めた。
これにより秘密を知ったまま生き延びた梓澤が生きることが確約。
シビュラは実質的に秘密の漏洩前に自らを公表せざるをえないことになってしまう。

このロジックはシリーズを通して追っている人にしか伝わらない描き方であり見返して理解に至ることができた。見事というほかない落とし方であった。

ビフロスト(ラウンドロビン)に関しても、デバック(バグを見つけ修正すること)を行うことが目的であり、「シビュラに認知されない異常=犯罪係数の上昇しない犯罪」がビフロストの秘密であり目的であり手段であった。

ラウンドロビンもシビュラが自信を律することが可能になったことで不要となった。

慎導によりシビュラが自信を律することができたからこそ法斑が処分されずに済んだのであることを考えるとよく練りこまれたシナリオであった。

 

総評

シナリオやテーマにおいては三作目にあって新しい試みが大きいことや長びいたことで広まった風呂敷を畳み切れていないなどの不満点はあったが、過去作との相関性という部分では拾い切れていない部分を捨てずに消化したことに大きな意味がある作品であった。

伏線は多々残っているため

  • 常守が拘留された理由
  • 法斑の背景
  • イグナトフ兄に起こった事件

他にも細かいところを見ていけばキリがないがこれだけでも単発のスピンオフが作れるほど想像の余地があるだろう。

今後のシリーズの前に一度区切りが欲しいと思う方もいるだろうが本作のように長期的に疑問が消化されるのであれば長く続くというのも悪くないと思える作品だった。